何年か前、人間の「不動心」について、興味深い心理学的実験が行われました。
最近、座禅の修行を始めたばかりの若者と、長年、禅寺での修行を積んだ禅師の二人に、脳はの測定実験を行ったのです。
最初、二人同時に、座禅による瞑想状態に入ってもらい、その脳波を測定したところ、二人の脳波は、いずれも、整然とした「アルファ波」を示しました。
そこで、二人を驚かせるために、突如、大きな音を立てたところ、二人の脳波は、いずれも、大きく乱れた波形を示したのです。
結局、永年の厳しい修行を積んだ禅師も、決して「不動心」ではなかったのです。
しかし、実は、その後の二人の脳波が大きく違いました。
若者の脳波は、音が静まった後も、いつまでも乱れ続けたのですが、禅師の脳波は、すみやかに、もとの「アルファ波」の状態に戻ったのです。
この興味深い実験結果は、「不動心」の本当の意味を教えてくれます。
「不動心」とは、「決して乱れぬ心」のことではなく、「乱れ続けない心」のことなのです。
☆田坂広志著「自分であり続けるために」より